飲食ビジネスナビ

飲食店開業は「やめとけ」のか

読了時間:

開業を人に相談すると、かなりの確率で「やめとけ」と返ってきます。ネットで調べても「5年で7割が廃業」「9割が失敗する」という言葉が並びます。

ただ、その数字がどこから来ているのかまで書いてある記事は多くありません。ここでは同じ企業を追いかけた調査を見たうえで、その数字が自分にどこまで当てはまるのかを考えます。

同じ企業を追いかけた調査では、廃業率は18.9%

日本政策金融公庫総合研究所が「新規開業パネル調査」という調査を出しています。2011年に開業した企業3,046社を継続調査先とし、2011年末から2015年末まで毎年12月末の状況を5回にわたって調べたものです。年ごとに違う会社に聞くのではなく、同じ会社の消息を追い続けている点がこの調査の特徴です。以下の数字は、2011年末を基準にした4年後までの累積です。

結果はこうなりました。

2011年末 基準 0% 2012年末 1年後 2.4% 2013年末 2年後 5.3% 2014年末 3年後 7.5% 2015年末 4年後 10.2% 0 5 10 12%
全業種では、4年間で10.2%が廃業した

2011年末に事業を続けていた企業を100とし、その後の廃業を累計したもの。
出典: 日本政策金融公庫総合研究所「新規開業パネル調査」(2016年12月公表)表-1。

これは全業種の数字です。業種別に見ると、飲食店の位置がはっきり出ます。

飲食店、宿泊業 N=598 18.9% 情報通信業 N=38 15.8% 小売業 N=372 14.5% 教育、学習支援業 N=88 12.5% 卸売業 N=156 11.5% 運輸業 N=79 10.1% 建設業 N=196 6.6% 個人向けサービス業 N=590 6.1% 事業所向けサービス業 N=200 6.0% 医療、福祉 N=532 5.5% 製造業 N=80 5.0% 不動産業 N=93 4.3% 0 10 20%
飲食店・宿泊業は、示された業種のなかで最も高い

2015年末時点の累積廃業率。飲食店・宿泊業は18.9%で、いちばん低い不動産業(4.3%)の約4.4倍です。
出典: 同調査 図-1。同図にはこのほか業種名のつかない「その他」(N=24・8.3%)があり、全体の合計は10.2%(N=3,046)です。
業種によってサンプル数に差があり、情報通信業はN=38と小さいため、順位そのものより飲食店の水準に注目してください。

「飲食は他より厳しい」という感覚には、実際に裏付けがあります。ただし、この調査で出ている数字は18.9%です。よく見かける「7割」「9割」とは、母集団も期間も測っているものも違うため、そもそも同じ土俵で比べられません。出典が書かれていない数字は、何と比べた何の割合なのかを確かめようがない、ということでもあります。

この18.9%を読むときの前提

とはいえ、この数字をそのまま「自分が開業したときの廃業率」と考えるのは早いです。調査の実施要領に、押さえておくべき前提が書かれています。

  • 母集団は公庫の融資を受けて開業した企業です。事業計画を作り、自己資金を用意し、審査を通った層にあたります。審査に通らなかった人や、融資を受けずに始めた店は入っていません。この点で、実際より低めに出ている可能性があります。
  • 起点は開業した年の年末です。2011年に開業して、その年の12月末時点で事業を続けていた企業が100の出発点になっています。開業して数か月で畳んだケースは、この分母に入りません。
  • 「飲食店、宿泊業」という区分です。宿泊業を含んだ数字で、飲食店だけを取り出したものではありません。
  • 2011年に開業した企業の追跡です。この年に開業した企業を追っているため、当時の経済環境の影響を受けています。同じ調査で、被災地域の廃業率は15.0%と全体の10.2%を上回ったことも報告されています。

それでも、出典が示されない「7割」「9割」より、母集団と追跡方法が明記されたこの18.9%のほうが、判断材料としては使えます。数字を見たときは、誰を何年追いかけたものかを確認する。それだけで、聞こえてくる「やめとけ」の解像度がだいぶ変わります。

「飲食店開業」は一括りにできない

もう一つ、この手の話でほとんど触れられないことがあります。「飲食店開業」と言ったときに、どれくらいのお金を動かすのかが、業態によってまるで違うということです。

当サイトが扱っている36業態について、開業に必要な投資額の平均と、その回収にかかる年数を並べたのが次の図です。

回収年数 0 2 4 6 投資額が最小・最大の業態 0 1,000万 2,000万 3,000万 開業投資額(平均)
同じ「飲食店開業」でも、動かす金額は6.4倍ひらく

当サイトの36業態について、開業投資額の平均と回収年数の目安をプロットしたもの。
いちばん小さいタピオカ・ドリンク専門店が550万円、いちばん大きいフレンチが3,500万円です。
これは業態ごとに当サイトが置いている想定値で、実測した平均ではありません。物件の状態や居抜きかどうかで、同じ業態でも大きく変わります。

投資額が小さいほうから並べると、こうなります。

投資額が小さい業態 投資額(平均) 回収年数の目安
タピオカ・ドリンク専門店 550万円 3年
唐揚げ専門店 600万円 3年
クレープ屋 650万円 3年
焼き鳥屋台 650万円 2.5年
カフェ 700万円 4年
投資額が大きい業態 投資額(平均) 回収年数の目安
フレンチ 3,500万円 7年
寿司 3,000万円 6年
ハンバーガー店 2,800万円 4年
焼肉 2,500万円 5年
牛丼屋 2,500万円 4年

ここが実務的にいちばん大事なところです。必要になる資金の規模が、業態によって最大で6.4倍違います。550万円で始める店と3,500万円かける店とでは、計画が狂ったときに動かせる範囲がまるで変わります。

「やめとけ」と言う人は、たいてい後者のイメージで話しています。でも、あなたが考えているのが前者なら、その警告はそのままは当てはまりません。逆に前者のつもりで後者の投資をしようとしているなら、警告は正しく効いています。

内装が入る前のスケルトン状態のテナント。コンクリートの床と配管がむき出しになっている
投資額の差が最も大きく出るのが内装です。厨房設備と排気・給排水をどこまで新設するかで、同じ坪数でも数百万円の開きが出ます。

うまくいかなかったとき、何が残るのか

「やめとけ」と言われるとき、その言葉が指しているのはたいてい失敗したあとの生活です。借金だけが残る、家族に迷惑がかかる。ここを曖昧にしたまま怖がっても判断できないので、制度の側から見ておきます。

まず開業資金の借入です。日本政策金融公庫の「創業の手引」には、創業期(これから始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方)について、こう書かれています。

原則として無担保・無保証人で各種融資制度をご利用いただけます。

新規開業・スタートアップ支援資金の融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内(いずれも据置期間5年以内)とされています。なお同じ手引には「一部ご利用いただけない融資制度があります」との注記もあります。

一般には、法人を作って代表者個人が保証していない状態で借りた借入は法人の債務にとどまります。一方、個人事業として借りれば、それは事業主本人の債務です。同じ金額を借りても、廃業したときの立ち位置が変わります。ただし保証や担保の有無、契約の条項によって扱いは変わるので、自分の場合がどうなるかは契約書と担当者で確認してください。

ただし借入だけが残るものではありません。店をたたむときには、次のものがついてきます。

  • 物件の原状回復。スケルトン返しの条件なら、内装と厨房設備をすべて撤去して元に戻す費用がかかります。契約書に条件が書かれているので、借りる前に読む項目です。
  • 賃貸借契約の連帯保証。融資が無保証でも、店舗の賃貸借契約は個人保証や保証会社の利用を求められるのが一般的です。
  • リース契約の残債。厨房機器やPOSをリースで入れている場合、途中解約には残リース料の一括精算を求められることがあります。
  • 取引先への未払い。食材の掛け仕入れが残っていれば、当然それも支払います。

ここまで並べると、さきほどの投資額の図が別の意味を持ってきます。設備が重い業態ほど、たたむときの原状回復やリースの精算も大きくなりやすいということです。ただしこれは比例するものではありません。居抜きで引き継げるか、設備を所有かリースか、契約にどう書いてあるかで変わります。

個別の契約でどうなるかは、融資の審査結果と賃貸借契約・リース契約の条項によります。ここに書いたのは制度と契約の一般的な形で、実際の条件は必ず契約書と担当者に確認してください。

「やめとけ」が当たりやすい条件

では何がその差を作っているのか。ここは公庫の調査からは分かりません。業種別の廃業率は出ていても、その理由までは分析されていないからです。以下は調査結果ではなく、開業支援の現場で繰り返し見てきたこととして挙げます。

  1. 投資額に対して、回収の見通しを立てていない。内装業者の見積もりが出た段階で「これくらいなら」と決めてしまい、月にいくら返すのか、その返済を含めて黒字になるのは何か月目かを計算していない。
  2. FL比率(食材費+人件費)を月次で見ていない。売上は毎日見るのに、原価と人件費の合計が売上の何%かは月末にならないと分からない、という状態。ここが60%を超え始めたときに気づけるかどうかで、立て直せる時期が変わります。
  3. 立地を家賃だけで決めている。安い物件には理由があります。人通りの量ではなく「自分の客層が通るか」を、曜日と時間帯を変えて自分の足で確かめたかどうか。
  4. ひとりで全部やろうとしている。仕込み・接客・会計・採用・発注を一人で回す前提の計画は、体調を崩した時点で止まります。
  5. 撤退ラインを決めていない。「何か月赤字が続いたら畳む」を開業前に決めていないと、判断が遅れて借入だけが増えます。

向く人・向かない人

上の5つを裏返すと、向き不向きの輪郭が出ます。当てはまらない項目があるからやめるべき、という話ではありません。当てはまらない部分を、誰かに任せるか、開業前に埋められるかが判断の分かれ目です。

見るところ向いている向いていない
数字の扱いFL比率と坪あたり売上を毎月計算して手を打てる「だいたい黒字なら良い」で月次を見ない
働き方仕込みから閉店作業まで、生活の中心を店に置ける決まった時間に働く生活を続けたい
人の扱い採用と教育を繰り返し続けられる「自分ひとりでやれば足りる」と考えている
立地の見方曜日・時間帯を変えて商圏を自分で歩ける物件価格と広さで決める
撤退の判断赤字が何か月続いたら畳むかを先に決められる「続ければ何とかなる」と考えがち

結論として

追跡調査の数字は18.9%で、他業種より高い。これは事実です。一方で、流通している「7割」「9割」とは違います。そして「飲食店開業」という言葉の中身は、550万円から3,500万円まで6.4倍の幅があります。

「やめとけ」は、業界全体に向けた平均の話です。自分に当てはまるかどうかは、業態を決めて、その業態の投資額・回収年数・原価率を自分の物件条件に当てて、はじめて分かります。そこまで確かめたうえで数字が合わないなら、それは「やめとけ」ではなく「この条件では合わない」という具体的な結論です。次に何を変えればいいかも見えます。

自分の場合はどうか、を一緒に整理します

考えている業態・予算・エリアをお聞かせいただければ、投資額と回収の見通しがどのあたりに来るかを具体的に出します。「やめたほうがいいか」の判断材料として使ってください。相談は無料です。

このページで使った数字について

  • 廃業率は日本政策金融公庫総合研究所「新規開業パネル調査」(2016年12月公表)によります。2011年に開業した企業3,046社を継続調査先とし、2015年12月末まで5回のアンケートを実施したものです。廃業の認定は、アンケートで「現在事業を行っていない」と回答した企業、現地調査で確認した企業、公庫の支店が確認した企業としています。
  • 調査対象は日本政策金融公庫国民生活事業の融資を受けて2011年に開業した企業です。全国の飲食店を無作為に抽出した調査ではありません。
  • 融資の条件は日本政策金融公庫「創業の手引」(2026年5月版)39ページによります。「原則として」と書かれているとおり、実際の条件は審査によります。
  • 業態別の投資額・回収年数は、当サイトが36業態それぞれについて置いている想定値です。実測統計ではなく、物件条件によって大きく変わります。各業態ページに内訳を掲載しています。

関連ページ